授業中にみんなが話し合っていると、耳を塞いでしまう、サイレンの音が怖く、避難訓練でパニックになってしまうなど、学校生活の中で困っている子に出会ったことはありませんか?周りから見ると、「そこまでうるさくないのになぜ…?」と思うかもしれませんが、実はその子の行動は、聴覚過敏によるものなのかもしれません。
では、聴覚過敏とは、どのような特性のことを指すのでしょうか。また、学校生活の中では、どんな支援ができるのでしょうか。今回の記事は、聴覚過敏の子の特性や、学校でできる支援について、詳しくまとめたいと思います。
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聴覚過敏ってなに?
聴覚過敏とは、感覚過敏の特性の一つです。感覚過敏とは、その名の通り、特定の感覚に対して過敏に反応してしまうということ。例えば、他の人が気に留めないような匂いに反応してしまう嗅覚過敏。体を触られることに不快感を感じたり、洋服の肌触りなどが気になってしまったりする触覚過敏など、様々なものがあります。
発達障害の方に、このような感覚過敏の特性を持つ方が多いとされていますが、感覚過敏があるからといって、発達障害があるというわけではありません。反対に、発達障害があっても、感覚過敏の特性を持ち合わせていない方もいます。
今回お伝えする聴覚過敏は、感覚過敏の中でも、聴覚が非常に敏感である特性のことを言います。聴覚過敏があると、例えば以下のような困難があります。
また、その特性の現れ方は、人によって違います。私たちが暮らす社会には音が溢れており、周りの音を調節することや、どんな音が聞こえてくるかを予測することは難しいことです。そのため、聴覚過敏があると、日常生活の中に様々な困難があると考えられます。では、聴覚過敏がある子は、学校生活の中でどのようなことに困っているのでしょうか。
聴覚過敏があると、学校生活でどのようなことが困るの?
他の児童の声や、教室内の音が耳に入りすぎ、疲れてしまう
他の児童の話し声や笑い声、机や椅子を動かす音、廊下からの足音など……教室の中は音で溢れています。聴覚過敏の子にとっては、疲れを感じやすい環境とも言えます。授業中だとしても、鉛筆で文字を書く音、冷暖房機器の可動音、校庭から聞こえる体育の掛け声など、全く音がない環境になることはありません。
私たちは、日常生活の中で必要な音を選びとり、その音にフォーカスを当てて聞くことができます。例えば会話をする際は、多少の雑音は気に留めず、無意識に相手の声に注意を向けて聞いています。しかし、聴覚過敏を持つ方の中には、必要な音を選びとって聞くことが難しい方がいます。どのようなことかというと、雑踏の中で音声を録音して聞いたような感覚だと言われています。そのような子にとって、先生の話を集中して聞き続けるということが、どれだけ難しいことかが想像できると思います。
特定の音が怖い
避難訓練のサイレンの音、運動会のピストルの音、太鼓などの大きな音など、特定の音が非常に苦手という子がいます。他の児童は気にならない程度の音でも、より大きな音や不快な音と感じてしまいます。人によっては耳に痛みを感じる場合もあるようです。
例えば、黒板を爪で引っ掻くような音を苦痛に感じる方は多いと思います。聴覚過敏の方にとって苦手な音を聞くことは、そのような感覚だと捉えていただけると、理解しやすいのではないでしょうか。苦手な音が聞こえるとパニックになってしまったり、強いストレスを感じて疲れてしまったりします。
聴覚過敏の子への対応方法
では、聴覚過敏の子に対して、学校ではどのような支援ができるのでしょうか。その対応方法についてお伝えします。
無理に慣れさせようとしない
聴覚過敏の子への対応方法として大切なことは、無理にその場に居させようとしないということです。黒板を引っ掻く音が絶え間なくする部屋に、「大丈夫だよ」と言われて連れて行かれることを想像してみてください。大丈夫ではないはずです。聴覚過敏は個人の感覚の特性なので、無理にその場に居させることで、苦手な音に慣れることはありません。むしろ、苦痛を感じる音から逃れられない恐怖とストレスで、学校に行くことが嫌になってしまうことも考えられます。その音が辛いというその子の気持ちに寄り添った支援をすることが大切です。
刺激になる音を減らす
音で溢れている学校ですが、刺激になる音を減らすことはできます。
例えば、机や椅子の足にテニスボールをはめたり、布のカバーを付けたりすることで、動かす時の音が軽減されます。また、運動会のピストルの大きな音が苦手な子であれば、出発時の音を笛に変える、ダンス練習で、音源から1番離れたところにその子を配置するなど、工夫できることはたくさんあります。
苦手な音に備えられるようにする
避難訓練のサイレンや、合奏の太鼓の音など、大きな音や苦手な音が鳴ることが予測できる場合は、事前に伝えてあげましょう。心づもりができ、不安感が軽減する場合もあります。
苦手な音からエスケープできる環境づくり
どうしても辛いときや、気持ちが落ち着かなくなってしまった時は、周りの音から離れて静かに休める環境を確保してあげることも、有効な支援です。例えば教室の隅に衝立をして椅子を置く、ダンボールの部屋を作りその中で休めるようにする、空き教室や、保健室、図書室など静かな部屋に避難できるようにするなど、気持ちを休められる場所を作ってあげましょう。辛くなったら休める場所があるということは、安心感にもつながります。エスケープの場所に行く際には、教師に声をかけてから行くなど、事前に約束を決めておくと良いでしょう。
音を軽減する道具の活用
また、身に付けることで、音の刺激を軽減できる道具もあります。こちらを活用することで、聴覚過敏の子が集団から離れることなく、自分で周りの音をコントロールできるようになります。音の刺激を軽減する道具は、以下の通りです。
- 耳栓…耳の穴に直接入れて使います。全体的な音の軽減ができます。
- イヤーマフ…音楽を聞くヘッドホンのような形をしています。聴覚過敏用のイヤーマフも販売されており、インターネットなどで簡単に購入することができます。ザワザワした雑音を防ぎますが、先生の話し声などの必要な音は聞こえるようになっています。
- ノイズキャンセリング機能のあるイヤホン…周りの雑音を防ぐことができます。好きな音を聞いてリラックスすることもできます。
これらはとても有効ですが、常に使っているとより周囲の音に敏感になってしまうことも考えられます。ですので、必要な時に使用するという形にすることがおすすめです。
こちらは、聴覚過敏の子供専用のイヤーマフです。4〜12才のお子さん対象の商品のようです。
また、株式会社石井マークさんという会社が、聴覚過敏保護シンボルマークを無償で公開してくださっています。苦手な音があることや、イヤーマフなどの道具が聴覚過敏の対策用のものであるということを示すマークとなっています。
他の児童からの理解を得る
苦手な音から避難したり、イヤーマフを使用したりと、その子の行動を見て、周りの児童が不思議に思うことがあるでしょう。そのため、なぜそのような行動を取っているのか、どうすれば安心して過ごせるのかを、担任の先生から伝えましょう。
聴覚過敏の子に対して、周りが過度に気を使う必要はありません。ただ、できるだけ近くで大きな声を出さないように気をつけたり、エスケープしている時にそっと見守ってあげたりするなどの配慮をしてもらえることで、聴覚過敏の子にとって、学級が安心して過ごせる場所になることでしょう。その子を特別扱いするということではなく、他の児童に対しても、困った時にはきっと力になるという担任の先生の想いを伝えることで、他の児童もあたたかく受け入れてくれることでしょう。
良き理解者になろう
今回は、聴覚過敏がある子の特性や対応方法についてお伝えしました。音で溢れる学校生活の中で、聴覚過敏の子が様々な困難を抱えていることがご理解いただけたと思います。苦手な音にさらされ続けていたり、我慢を強いられたりする環境下では、ストレスから、聴覚過敏の特性がより強く現れてしまうことも考えられます。担任の先生が聴覚過敏についての理解者となり、適切に対応してくれると感じることで、少しずつ安心して過ごせるようになります。
また、自分の苦手な音を知ったり、その対応方法を身に付けたりすることは、学校生活だけでなく、その子の今後の人生にとっても大切なことです。本人や保護者、他の教職員などとコミュニケーションを取りながら、より良い環境を作れるようにしていきましょう。