「保育園や幼稚園の先生から就学相談を勧められたけれど、何をする場なのかがわからない」「来年小学生になる子どもの発達が気になっていて、小学校に入学することが心配」。など、お子さんの小学校入学が近付き、悩んでいる保護者の方はいらっしゃいませんか?
また、「就学相談を受けたら、勝手に就学先を決められてしまうのでは?」「就学相談を受けたら、特別な子として扱われてしまうのでは?」と心配な思いを抱えている方もいらっしゃるかもしれません。
そんな保護者の方の疑問や不安が解消できるように、この記事では、就学相談ではどのようなことをするのか、それぞれの就学先には、どのような特徴があるか、について、わかりやすく解説していきたいと思います。
「はったつルーム」は、先生や、保護者の方に向けて、役立つ情報を発信しています。この記事を読んで、「面白い」と思った方は、ぜひ下記リンクより他の記事も読んでくださいね。また、Instagramでも記事の更新をお知らせしています♪
就学相談とは、最適な就学先を決めるためのプロセスのこと
就学相談は、障害がある子や発達が気になる子が安心して学習し、力を伸ばせる就学先を決定するまでの一連の流れのことを言います。就学相談の1番の目的は、そのお子さんにとって、最も適している教育環境とはどこかを決めることです。どこに在籍して学習することが、その子が最も安心して力を伸ばすことにつながるかを、様々な見地から考えます。
そのために、就学相談では、お子さんの保育園や幼稚園の先生の意見、療育などの支援者の意見、保護者の方の希望やそのお子さん本人の様子など様々な情報を踏まえた上で、教育委員会、発達専門の医師や心理士、学校教員などの専門家が協議をし、その子にとって1番適していると思われる就学先を判断します。
この記事では、一般的な就学相談の流れについて解説しますが、自治体ごとに進め方や内容は少しずつ異なります。こちらの記事を参考に、主な流れを掴んでいただき、詳しくはお住まいの自治体の教育委員会に問い合わせたり、お子さんの通っている保育園や幼稚園、療育などの機関に相談してみたりすると良いと思います。
また、就学先の選択肢としては、通常学級・通級指導教室・特別支援学級・特別支援学校があります(自治体ごとに名称が違う場合もあります)。それぞれの特徴については、後ほど詳しく解説します。
就学相談の前に、何を行えば良いの?
情報集め
就学相談を受ける前に、できれば地域の学校の様子を見たり、実際に通っている方からお話を聞いたりと、情報を集めておくことをお勧めします。実際に見ることで、その学級に通っている子ども達の様子や活動内容、担任の先生の接し方などを見ることができるため、イメージが膨らみます。学校公開日や行事などの、学校が地域に開かれている日に観に行くこともできますし、地域の教育委員会や、学校に問い合わせて見学が可能かどうかを確認すると良いでしょう。
家族での話し合い
就学相談は、どの小学校に進学したいかだけを決める場ではありません。お子さんが今後どのような教育や支援を受けていきたいか、将来どのような人生を送ってほしいかを、一度ご家族で話し合う必要があります。就学相談の前に方針が決まっていなくても、様々な場所に見学に行ったり、様々な人と話をしたりしていく中で、家族全員が同じ方向を向いてその子の将来に対する考え方を共有できるようになることが理想です。
生育歴の整理
就学先を協議する際に、お子さんについての様々な情報を聞かれることがあります。例えば、お子さんの発達が気になると感じた時期はいつ、どんな時だったのか、乳幼児検診や保育園・幼稚園の先生に発達の様子を指摘されたことがあるか、本人が生活の中でどのような困り感を持っているのか、また本人の好きなことや得意なことは何かなどを、正確に伝えられることで、判断の材料になります。
また、医師から診断を受けている、知能検査を受けたことがある、服薬している、療育機関に通っているなどの情報があれば、事前に情報や資料を整理しておくことでスムーズに就学相談が進み、具体的な支援につながっていきます。
就学相談ってどんなことをするの?
就学相談は、その自治体によって、方法や流れが異なります。本記事では、元特別支援学級担任の筆者の経験や、一般的な流れに沿って説明をしますので、詳しくはお住まいの自治体の教育委員会へお問い合わせください。
就学相談の流れ
①申し込み
就学相談は、就学時検診のように就学の前年度に通知が届くことはありません。お子さんの発達が気になっていたり、就学先について心配がある場合は、保護者の方が、ご自分で就学相談の申し込みを行うことが必要です。申し込みの方法は自治体によって違いますので、お住まいの地域の教育委員会や、通っている保育園や幼稚園に問い合わせをしてみましょう。
②面談
教育委員会の担当者や心理士等と面談を行います。お子さんの生育歴や得意なこと、苦手なこと、保育園や幼稚園での様子、就学先の希望、支援してもらいたいことなどについて話をします。面談の場所は、地域の教育委員会や、教育センターなどで行われることが多いです。事前にお子さんの様子についての質問票を記入したり、診断書や発達検査の結果などの情報がある場合は、用意しておく必要があります。また、保護者の方が疑問に感じていることについても質問できる場です。面談は複数回行われることが多いようです。
③発達検査
お子さんの発達段階や特性、強み、苦手さを把握するために、発達検査を受けます。発達検査は、医師や心理士がお子さんと話をして語彙や言葉の理解の様子を見たり、積み木などのおもちゃなどを操作することで、行動や発達の様子を観察したりします。遊び感覚で取り組めるような課題が多いので、あまり身構えて考えなくても大丈夫です。発達専門の病院で別途行う場合もありますし、自治体の教育委員会に在籍している心理士が行う場合もあります。また、発達検査を受けた後は、その結果のフィードバックを受けることができます。お子さんの特性や支援の方法を知る上で、とても有意義な情報を得ることができるでしょう。
④情報収集
就学先決定の協議をするために、教育委員会の担当者が中心となって様々な情報を収集します。自治体によって、内容や方法は異なります。
保育園や幼稚園による、観察の資料
通っている園の担任の先生が、園での様子を資料にまとめます。言葉でのやり取りや、運動、手先の器用さ、生活面の自立がどれだけできているか、友達との関わり方、情緒面の課題などについて記述します。
心理士によるお子さんの行動観察
心理士がお子さんに質問をしたり、簡単な作業をしたりして、お子さんの発達段階や、苦手なこと、強みなどを見取ります。1対1で行われることが多いようです。
医師の診察
医師が保護者に面談して生育歴を聞いたり、お子さんの様子を観察したりします。
⑤就学先候補の見学・体験
就学先候補の学校を見学したり、実際に授業を体験したりすることができます。特に体験では、お子さんがその学校に入学したらどのような授業を受けるのかがイメージしやすいので、就学先を決める上での良い判断材料になることでしょう。就学先を迷っている場合はその旨を教育委員会に相談することで、複数の学校を見に行くことができるケースが多いです。
⑥模擬授業による行動観察
教育委員会担当者・医師・心理士・就学先の学校教員による就学支援員会のメンバーが、その様子を観察します。テストのようなものではなく、数人のお子さんを集めてリズム遊びやゲーム、運動などを行ったり、教員と1対1で簡単な学習を行ったりすることが多いようです。どれくらいの間座って話を聞けるか、簡単な指示が理解できるか、親と離れて1人で行動できるか、数の概念や言葉の概念がどのくらい身に付いているかなど、実際の小学校生活に結びつくような観点を見ています。
⑦就学支援委員会による協議
②〜⑤の情報は、就学支援委員会のメンバーに共有されます。その上で協議を行い、その子がどの学校で1番安心して過ごせ、力を伸ばすことができるのかを、医療、心理、教育などそれぞれの見地からの意見を述べて話し合い、最適と思われる就学先を決定します。
⑧保護者への判定結果の通知
就学支援委員会で決定された就学先を、保護者に伝えます。その就学先が、なぜお子さんに合っていると思われるのか、その就学先でどのような支援を受けられるかなども聞くことができます。
⑨就学先の決定
⑦で通知された結果を踏まえてご家庭で話し合い、保護者が就学先を最終決定します。もし就学相談の結果と異なる希望になった場合は、その旨を教育委員会の担当者に伝え、話し合いをします。就学先が決定されると、就学通知が届きます。
就学先の学校の種類
小学校の就学先には、以下の4つがあります。それぞれの概要をご説明しますので、お子さんにあった学びの場を検討しましょう。
通常学級
通常学級は、定型発達のお子さんと一緒に学習をする学級です。1クラスは30人〜40人ほどの人数で、補助の先生がつく場合もありますが、基本的には担任の先生は1人です。学習指導要領という、文部科学省が定めた基準に沿ったカリキュラムの教育を行います。
通常学級+通級指導教室
通級指導教室は、通常学級に在籍しながらその子に合った個別の指導を受けられる学級です。主な教科の学習や朝の会、給食などは通常学級で受け、通級指導教室の時間だけ移動をして指導を受けます。通級指導教室が在籍する学校に設置されていない場合は、保護者が送り迎えすることが必要ですが、東京都など一部の自治体では、在籍する学校で、通級指導教室の指導が受けられるように教員が巡回している場合があります。通級指導教室には、以下のようなお子さんが通うことができます。
- 言語障害(発音の課題、吃音など)
- 弱視
- 難聴
- 自閉症スペクトラム症、情緒障害、発達障害(ADHD、LDなど)
- 肢体不自由
- 病弱及び身体虚弱
以上の全ての学級を設置していない自治体があります。通級指導教室の対象になる障害の程度は、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とする程度、とされています。また、自治体によって名称が違う場合もあります(東京都では、特別支援教室という名称です)。
特別支援学級
特別支援学級は、基本的には地域の小学校の中に併設されています。8人の児童に対して担任の先生が1名で指導を行っていますが、講師や補助員など人員が確保されていることが多く、通常の学級よりは手厚い環境で学習ができます。特別支援学級では、各教科の目標や内容を、その子どもの実態に応じて設定することができるため、個々に合った学習内容を受けることができます。また、地域の小学校の中に併設されているので、「交流及び共同学習」という形で学校行事などを通して通常の学級の児童と交流したり、得意な授業のみ通常の学級に参加したりという機会も設けることができます。
特別支援学校
特別支援学校は、以前は「聾学校」「盲学校」「養護学校」などと呼ばれていましたが、学校教育法の改正によって、「特別支援学校」という名称になりました。幼稚部〜高等部まであり、心身に障害のある児童が通う学校です。1クラスの人数は平均で3人と、特別支援学級と比べてもより手厚い教育を受けることができます。
さらに、特別支援学校の教員は、原則として通常の教員免許に加えて特別支援学校の教員免許も持っています。一人ずつに合わせたきめ細かい教育を受けることができ、学習面だけでなく、生活面の指導や、遊びの指導、自立に向けての指導なども行われます。特別支援学校は、設置数も多くはないので、自宅の近くにない場合も多いです。スクールバスを利用したり、保護者の送迎が必要になったりする場合があります。
よくある質問
就学相談について、保護者の方から、以下のような不安をお聞きすることがあります。
就学相談を受けたら、通常の学級には行けなくなるの?
就学相談の目的は、お子さんにとって最も適した教育環境を提案することにあります。ですので、就学相談の結果、通常学級で学ぶことが適していると判断されることもあります。また、最終的に就学先を決定するのは保護者の方ですので、就学相談で提案された就学先に進学することが強制されるわけではありません。
一度入学したら、もう学校を変えられないの?
就学相談を経て入学した後にも、他の学級や学校に転学することはできます。最近はインクルーシブ教育が推進されているので、就学相談の体制も柔軟になってきています。進学してからのお子さんの様子や、発達段階、学習の習熟度などを考慮した上で、就学相談を受け直すことができます。その場合は、通っている学校の担任の先生や、その時お子さんが関わっている療育の先生や医者など、様々な人に相談して、決めると良いでしょう。また、中学に進学するタイミングで、再度就学相談を行い、進学先を見直す機会もあります。
見学や体験をして、納得できる就学先を選ぼう
お子さんの就学先を決定するということは、小学校の6年間だけでなく、これから先の進路に関わってくる大切な選択です。ですので、「就学相談で言われたから……」「友達が皆その学校に行くから……」という理由で就学先を決定することは避けましょう。就学相談にかかることで、お子さんの特性やより良い支援の仕方について、たくさんの専門家の方の意見を聞くことができます。
また、家族でしっかりと話し合い、お子さんがどのような学校生活を送ってほしいか、どのような大人になってほしいかを家族で一度立ち止まって考えることは、お子さん自身の将来にとって、とても大切なことです。就学先を決めるために、たくさん悩むことは当然のことです。たくさんの方の意見を聞いたり、家族で話し合いを重ねたりしながら、保護者も子どもも納得できる就学先を選びましょう。